宇宙の大規模構造とダークバリオン問題

宇宙の大規模構造

人類が遠くを観測できるようになるにつれて、宇宙が非常に大きな構造をもっていることがわかってきました。星は多数集まって銀河を作っています。また、銀河も 100 個から 1000 個程度集まって銀河団という集団を作っています。さらに、銀河団同士もてんでばらばらに存在するわけではなく、3 次元のクモの巣のような構造で結ばれていることがわかってきました 。

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図1: ダークマターの分布。一辺 70 Mpc図2: ダークマター、銀河、銀河団、中高温銀河間物質の分布の比較 (筑波大吉川氏提供)。

銀河や銀河団といった構造は、当初は目に見える光 (可視光) で発見されたものです。しかし、その後 X 線など他の波長で観測することで、それらの構造の理解が進んできたのです。
特に、銀河団やそれを超える大きな構造では、星の占める質量はわずかに過ぎず、その 5 倍もの質量を 100 万度を超えるような高温ガスが担っていることがわかっています。これらの高温ガスは X 線を放出するので、これらを調べるには X 線を用いるのが最適なのです。

さらに、星や銀河団 (バリオン) の 10 倍の質量を占めるダークマターが存在します。ダークマターを直接観測することは (現在のところ) できません。しかし、X 線などによる観測は重力ポテンシャルの深さを測ることができるので、たとえば銀河団にどの程度の質量があるのかがわかるのです。しかし、現在のところ観測が可能なのは銀河団などの質量の大きな領域 (図 2 左上の黄色や赤の部分) に限られています。

ダークバリオン問題とは

宇宙の 96% はダークエネルギー、ダークマターといったダークなやつらです。しかし、星や銀河団 (陽子や中性子)、といった「普通の」物質 (バリオン) でさえも、すべてが観測にかかっているわけではありません。ビッグバン直後の遠方宇宙では観測されたバリオン量に比べて、近傍宇宙で観測されている量は半分程度にすぎないのです。

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これは「ダークバリオン問題」あるいは「ミッシングバリオン問題」と呼ばれています。近傍宇宙のバリオンがどのような形態で存在しているのかは宇宙論に残された大きな謎の一つです。宇宙の構造形成によるシミュレーションによると、バリオンは「中高温銀河間物質 (Warm-hot intergalactic medium; WHIM)」 (図 2 右下の「温かい銀河間物質」)として存在していると予言されています。しかし、実際の観測なしには真の分布は明らかにはできません。また、観測により分布、密度、温度などが調べられれば、宇宙論の理解を観測から進めることができるのです。

中高温銀河間物質は、電離した酸素、ネオンなどのイオンを通じて観測することが (原理的には) できます。これらのイオンの吸収線や輝線は X 線のエネルギーにあるので、X 線での観測が重要です。しかし、非常に密度が薄いため、現在の衛星で実際に観測するのは難しいのです。私たちは日本のすざく衛星、ヨーロッパの XMM-Newton 衛星を用いて中高温銀河間物質の検出を目指すとともに、より感度の高い検出器の開発を進めています。

検出器の開発はこちら

これまでの研究

私たちは、中高温銀河間物質の中でも比較的密度の高い部分 - 銀河団の周辺 - にターゲットを定めて、研究をしてきました。

まず、銀河団 (周辺部) の背景にある明るい天体を XMM-Newton 衛星の回折格子で分光し、中高温銀河間物質による吸収線を探りました。その結果、かみのけ座銀河団に付随した 8 階電離したネオン (NeIX) の吸収線が検出されました。その波長はかみのけ座銀河団の赤方偏移にぴったりいます。残念ながら有意性はそれほど高くなく (2.3sigma)、誰もが納得する結果ではないのですが、銀河団のまわりに密度の高い中高温銀河間物質が存在することが示唆されました。

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また、銀河団のまわりの中高温銀河間物質は酸素イオンやネオンイオンは X 線を放射します。すざく衛星の CCD は輝線に対する分光能力が高いため、これまでの衛星の数倍高い感度を持っています。これを利用し、私たちはいくつもの銀河団周辺を観測しています。残念ながらまだ上限値しかえられていませんが、これまでの観測よりはるかに感度が高いため、観測を続けることで輝線が検出されることが期待されます。

関連記事 (天文月報 2007 年 8 月号) がこちら (日本天文学会の Web page; pdf) にあります。

今後の展望

すざく衛星の CCD は中高温銀河間物質からの輝線に対して感度がよいため、多くの銀河団の周りを観測することではっきりとした放射が観測されると期待されます。また、仮に何も観測されなくても、中高温銀河間物質の密度や温度に制限がつけられ宇宙論のモデルと比較することができるでしょう。

しかし、図 1 や図 2 のようなダークマターの構造を知るには大きなブレイクスルーが必要でしょう。そのためには 10 倍以上の分光能力を持つような検出器が必須です。私たちが開発をすすめているカロリメータはそれを実現できる検出器です。NeXT 衛星などでカロリメータによる観測ができることを楽しみにしています。また、中高温銀河間物質の観測に特化したDIOS 衛星も提案しています。今後も検出器開発、観測的研究の両面で大規模構造の研究を進めていきます。

参考文献



添付ファイル: filefig3.png 2044件 [詳細] filebarion.jpg 2173件 [詳細]