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すざく観測速報12 (最終回): すざくが観測したSN1006

〜定家の超新星、1000歳の姿〜

本記事は天文月報99巻7号に掲載されました。

藤原定家(1162-1241)は56年間にわたり、「明月記」にその時代のさまざまな出来事を書きとめました。旧暦の寛喜2年(西暦1230年) 10月末、客星(おそらく彗星)が現れました。客星の出現は吉凶の前兆です。数年前から洪水や飢饉など悪い事件が続きました。定家は客星出現と吉凶に関心をもち、陰陽師の安部泰俊(安部清明の6代目の孫)に過去の記録を調べさせました。その報告をもとに「客星古現例」を寛喜2年11月8日に記したのです(時雨亭文庫特別展パンフレットより要約)。

その一節に「一條院 寛弘三年 四月二日 葵酉 夜以降 騎官中 有大客星 如螢惑」とあります。「西暦1006年5月1日、騎官(現在の狼座付近)の方向に明るい客星が現われ、螢惑(火星)のようだった」という意味です。現在この方角に若い超新星残骸、SN1006が発見されています。

「客星古現例」には「かに星雲」や「3C58」などの超新星、その他新星、彗星など、さまざまな客星の記述がありますが、「大客星」という称号を獲得したのはSN1006だけです。中国(宋)の記録から判断して、人類が記録した最も明るい超新星だったようです。その大客星が「螢惑(火星)の如し」ではいささか迫力に欠けますね。客星の「かに星雲」ですら「歳星(木星)の如し」ですから。

SN1006は南天にあり、京都では地平線から15度くらいしか上がりません。1000年前では若干よくなりますが、それでも5月1日には深夜に南中、高度は20度くらいです。だから日没後しばらくして、地平低くに現れたSN1006はかなり赤く見えたことでしょう。やや上空ではさそり座のアンタレスが赤く輝いていたはずです。さらに当時、近くには赤い惑星、火星もいました。赤い鳥(朱雀)は南の池沼にあって都を護るといいます。それが眠りに入るころ、南天低くには3つの星が赤さを競っていたのです。SN1006を火星に比喩したのも頷けます。


図1:「すざく」で撮像したSN1006の1000才のX線記念写真。左は高電離酸素からのX線(0.57キロ電子ボルト). 右は3-5キロ電子ボルトのX線による。全体の大きさは直径約60光年である。

X線天文衛星「あすか」はSN1006の衝撃波面から、高エネルギー電子が放射するシンクロトロンX線を発見しました。「チャンドラ」は異常に細いフィラメント内で極めて効率よく電子加速が行なわれていることを明らかにしました。SN1006は最も明るく輝いて誕生したのみでなく、宇宙線加速の研究でも主役を張る大スターに成長したのです。

本年(2006年)の5月1日はこの大スターの1000歳の誕生日にあたります。そこで「すざく」で「記念撮影」をしました(図1)。図1左はヘリウム状に電離した酸素輝線のマップです。爆発以来、1000年にわたり超高速で膨張を続け、直径60光年もの巨大高温ガス球に成長した様子が鮮明にみられます。一方連続X線 (3-5キロ電子ボルト)で同様に撮像すると、宇宙線電子からのシンクロトロン放射の分布がわかります(図1右)。図1左の高温ガス球とは全く異なる姿を見せていますね。これは1000年間休みなく衝撃波が宇宙線を加速し続け、地上の如何なる加速器も凌駕する超高エネルギー、約1014電子ボルトを達成した結果です。このように「すざく」の優れた撮像分光能力でもって、熱的プラズマと宇宙線加速現場の空間分布の違いを如実に示すことができたのです。さらに詳しい解析が進行中ですが、熱的プラズマの存在と宇宙線加速効率は同じ衝撃波でもその位置によって劇的な変化を示すことがわかりました(図2)。宇宙線加速の機構にも肉迫しつつあることが実感できます。さすが大スター、我々の期待を裏切りません。


図2: 図1(右)の北東部分の縁2箇所から取得したX線スペクトル。黒は北側の縁、赤は東側の縁からのもの。両者に際立った違いが見られる


 

我々「すざく」チームは、その打ち上げ成功と数々の初期成果、そしてSN1006誕生1000年を記念して、2006年12月に国際会議``The Extreme Universe in the Suzaku Era''を開催します。場所は、藤原定家が「明月記」を書きとめた地、京都です。内容はSN1006や「すざく」の初期成果にとどまらず、ブラックホールや銀河・銀河団、ガンマ線バースト、宇宙線など、広く高エネルギー天文学の課題を含みます。詳細はhttp://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/conference/suzaku2006/をご覧ください。

文責: 小山勝二(京大)、馬場 彩(理研)、山口弘悦(京大)、寺田幸功(理研)

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