「すざく」が明らかにした銀河団外縁部のバリオン: X 線で最も明るい銀河団、ペルセウス銀河団の観測

2011 年 3 月 25 日
English version at NASA web site: http://www.nasa.gov/mission_pages/astro-e2/news/perseus-cluster.html

図 1: 「すざく」はペルセウス座銀河団の 2 方向について、高温ガスからの淡い X 線をとらえました。疑似カラーの図は 3 日間にわたって記録された 700 電子ボルトから 7000 電子ボルトのエネルギーの X 線画像を重ねたものです。赤が X 線で明るく、青は X 線で暗いことを示します。波線は直径 1160 万光年の円を表し、これがいわゆるビリアル半径に対応します。その付近では冷たいガスが銀河団に突入しています。赤い円は銀河団以外の X 線天体の位置を示しています。挿入図は NASA のチャンドラ X 線衛星で撮影した明るい銀河団中心部の画像です。 Credits: NASA/ISAS/DSS/A. Simionescu et al.; inset: NASA/CXC/A. Fabian et al.

   日本の X 線天文衛星「すざく」はペルセウス銀河団を観測し、この巨大な銀河団について、これまでにない知見を得ることに成功しました。 銀河団のサイズ、重さ、構成物質を詳細に調べることで、銀河団の外縁部では数百万度のガスが大量の塊にわかれて、むらむらを作って存在している証拠を、初めて得ることができました。 この結果は 2011 年 3 月 25 日発売の、米 Science 誌で発表されました。

   銀河団は、銀河の集団として発見された、差し渡し数百万光年のサイズを持つ宇宙最大の天体です。 しかし、銀河団にとって主要なものは銀河ではなく、高温ガスです。 銀河団中の「普通の物質 (バリオン)」のほとんどは、X 線を発する高温ガスとして、銀河と銀河の間の空間に存在します。

   「銀河団中のバリオンについて理解することは、銀河団を使って宇宙の進化を探る上で非常に重要だ」と話すのは、論文の共著者の一人であり、NASA ゴダード宇宙航空センター (メリーランド州グリーンベルト) に勤める Adam Mantz 氏。銀河団は宇宙論的パラメータの測定に使われてきました。同様の測定は、銀河の分布、超新星爆発、宇宙マイクロ背景放射といった、他の方法でも独立に求められており、これらは良く一致しています。しかし、一点、異なる値が報告されているパラメタがありました。

   NASA の Wilkinson Microwave Anisotorpy Probe (WMAP) 衛星は、ビックバンの名残の光である宇宙マイクロ波背景放射による観測により、宇宙の「普通の物質 (物理学者はこれをバリオンと呼びます)」の量が、宇宙の全物質のうち 17% に過ぎないということを確立しました。 残りの物質は、ダークマター (暗黒物質) という未だ正体のわからない物質です。 なお、宇宙には物質以外にダークエネルギーというさらに正体不明のものがあることも知られています。 銀河団が巨大な存在であることを考えると、銀河団中のバリオンとダークマターの比は宇宙の典型的な値 (WMAP の値) と同等であると予想されます。しかし、これまでの銀河団の観測からは、銀河団中のバリオン量はそれを下回っていたのです。 「すざく」は、近傍銀河団をの暗い縁に至るまで観測し、淡いガスからの X 線をとらえることに成功しました。そして、その結果、初めて、バリオン量の食い違いを解決できたのです。

   著者たちは 2.5 億光年離れたところにあるペルセウス座銀河団に注目しました。この銀河団は 銀河系外の広がった天体の中で最も明るいため、銀河団の詳細な研究には最適な天体です。また、「すざく」が外縁部のマッピングを行った銀河団の中で、最も近く最も明るいものでもあります。 スタンフォード大学 Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology (KIPAC; カリフォルニア) の研究者、論文主著者である Aurora Simionescu 氏 は「『すざく』以前は、銀河団中のガスの性質の研究は、非常に明るい銀河団中心部に限られていました。つまり、銀河団の体積のほとんどの部分は実質的に研究されていなかったのです」と話しています。

   2009 年の終わり、「すざく」の望遠鏡はペルセウス銀河団を何度も観測し、銀河団中心から東と北東の方向の二方向のマッピングを行いました (図 1 参照)。二方向それぞれの差し渡しは 2 度。これは満月 4 つ分の長さであり、銀河団中心からの距離は 900 万光年に至ります。観測は可視光の数百倍のエネルギーを持つ X 線で行い、観測は数日にわたりました。

   観測から銀河団の淡いガスの密度や温度がわかります。そして、それらからさらに銀河団の多くの重要な性質を得ることができます。その一つは「ビリアル半径」と呼ばれる、銀河団の端までの距離です。銀河団の直径が 1160 万光年にわたっていて、銀河団内の質量は太陽の 660 兆倍以上にもなることがわかりました。この質量は我々が住む銀河系の 1000 倍程度でした。 また、特筆すべきパラメータ、銀河団中のガスの質量と、ダークマターを含む物質の総質量の比も求めることが出来ます。この「すざく」の観測では、過去にないほどの高い精度で、この比を求めることに成功しました。そして、これまでの銀河団の観測では見つかっていなかった、他の観測から予想されるだけのバリオンをとらえることができたのです。一見すると、予想された量を越えるほどのバリオンが存在するようにすら見えました。



図 2: ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した NGC 1275 の画像 (http://www.nasa.gov/images/content/408744main_suzaku_NGC-1275_HI.jpg)。 この銀河はペルセウス銀河団の中心に位置する。赤い糸のようなフィラメントは、磁場で支えられている冷たいガスを示す。 Credit: NASA/ESA/Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration

   この新たな謎を解決するには、高温ガス (バリオン) の分布を理解する必要がありました。銀河団の中心付近では、ガスの分布はスムーズになまされています。しかし、銀河団外縁部では、スムーズな分布になっているのではなく、銀河団に落ちてきたガスが塊を作って存在していると考えられるのです。 この分布を考慮に入れない場合、ガスの密度を過大評価してしまいます。この分布を考慮に入れると、ペルセウス座銀河団のバリオン量は WMAP の結果とよく一致しました。

   「すざく」の今回の観測のリーダーであるスタンフォード大 KIPAC の Steve Allen 教授によると「ガスの塊の分布、そして、それらが銀河団に突入したとたんに壊されたりはしていないことは重要なことだ。これまで研究できなかった銀河団外縁部でどんな物理過程が起きているのかを理解する手がかりとなるだろう」とのことです。

   「すざく (朱雀)」は日本の 5 番目の X 線天文衛星です。打ち上げ前は Astro-E2 という名前で呼ばれていて、2005 年 7 月 10 日に打ち上げられ、「すざく」と名付けられました。「すざく」は宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部 (現・宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所) が、NASA や日米の他の機関と共同で開発した衛星です。

「すざく」についてのより詳しい説明は http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/ (日本語) および http://www.nasa.gov/astro-e2 (英語) をご覧下さい。


高解像度の図はこちら: 図 1 ラベルあり 図 1 ラベルなし 図 2 (NASA へのリンク)

日本連絡先:
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 高エネルギー天文学研究系
竹井 洋 (たけい よう)
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