マクニール星雲中に誕生した原始星が、X線で輝く超高温の斑点をあらわにした。

07.03.12
 
宇宙物理学の国際研究チームは、三機のX線天文衛星、すざく(宇宙科学研究所)、チャンドラ(NASA)、XMMニュートン(ヨーロッパ宇宙機 関)を用い、形成過程の星の高エネルギー活動の一端を捉えた。この研究により、激しい磁場活動が大量のガスを高速で星表面に流し込み、広範な領域 を数千万度の超高温に加熱する事が分かった。加熱された超高温ガスが発するX線により、この生まれたての星、原始星が高速で回転している事が分 かった。

マクニール星雲にあるこの原始星は、爆発的活動の期間中、X線波長で通常の百倍の明るさで輝いている。このアニメーションでは、三 機のX線天文衛星による発見を元に、磁場活動が星への大規模なガスの流入を即し、形成された二つの超高温の斑点 がX線で輝く様子を再現している。 (Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
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オリオン座M78星雲にある星 V1647 Ori は、2004年の1月に爆発的活動現象のピークに到達した。この活動は激しさを極め、星からの光は周囲の、現在マクニール星雲として知られるコーン上のダ ストの固まりを浮かび上がらせた。この星とマクニール星雲は、地球から1300光年の遠方に位置する。

この活動の発見後、V1647 Ori は、産まれたガス雲に今だ包まれた原始星だと分かった。「赤外線観測によると、この星は百万年より遥かに若いと思われます」メリーランド州グリーンベルト にあるNASA ゴダード 宇宙飛行センターで研究する宇宙物理学者で、主研究者である濱口健二は述べた。

原始星は太陽のような壮年期の星と違い、星の中心部で水素を核融合燃焼してエネルギーを作り出す能力を持たない。V1647 Ori がその能力を持つには、後数百万年待たなくてはならない。それまで、この星は周囲に広がる星周円盤からガスが落ち込んで作り出される重力エネルギーで光り 続ける。

McNeil's Nebula
原始星 V1647 Ori は、2004年1月の爆発的活動のピーク時に発見された、マクニール星雲と呼ばれるコーン状の輝きの先端に位置する。
Frederick C. Gillett 氏によってハワイにあるジェミナイ天文台で撮られたこの画像は、マ クニール星雲の 2004年2月14日の様子を捉えている (Credit: Gemini Observatory)
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原始星 V1647 Ori の質量はおそらく太陽の8割程であるが、密度が薄いために太陽のほぼ5倍の大きさに膨らんでいる。赤外線観測によると、星表面の大部分は、摂氏3500度 程度である。

2003年に始まった爆発的活動中、原始星のX線光度は百倍増加し、X線を放出する高温ガスの温度は摂氏5000万度に達した。別の爆発的活動は 2008年に始まり、現在も続いている。

これらの爆発的活動中に見られる可視光や赤外線での激しい増光は、原始星本体に流れ込むガスの量の増加によって説明されている。X線強度が可視光 や赤外線に連動して変化した事から、X線放射もこのガスの流入に関係があると考えられるようになった。

「原始星 V1647 Ori は、流れ込むガスとX線強度の関係の直接的な証拠を示した最初の天体です。」シュトラスブルク天文台にある フランス国立科学研究センターの宇宙物理学者で、論文の共著者である Nicolas Grosso は力説した。この関連性は、以来、爆発的活動を起こした他の若い星にも見られている。

観測されたX線が、星ないし星周円盤のどこから如何に放出されるか突き止めるため、国際研究チームは、すざく、チャンドラ、XMMニュートンとい う三大X線天文衛星の全観測データを再解析した。その目標は、X線を放射する領域と機構の手がかりを与えるパターンを見つける事にあった。

7月20日出版のアストロフィジカルジャーナル誌に、このチームは、11回の観測で得られたX線の時間変動に強い周期性が見られるという結果を発 表する。特筆すべきは、周期変動からこの星がわずか1日で自転している事が分かった事である。V1647 Ori はX線観測で自転速度が求まった最も若い天体の一つとなった。

「太陽のほぼ5倍の大きさでこの速さで自転するという事は、星が自転でバラバラになる一歩手前の状況から、重力で引き合ってより安定した星になる 過程を見ているのであろう。」ニューヨークにあるロチェスター工科大イメージ科学宇宙科学工学科の教授で、論文共著者の Joel Kastner 氏はこう述べた。

周期的なX線変動は、星表面にある超高温の領域が、星の回転で出現し隠れるために起こると考えられる。観測された周期変動を説明するには、二つの 明るさの違う斑点が星の対局に存在しなくてはならない。斑点は太陽程の大きさのパンケーキ状の領域で、南側のそれが5倍程明るい。

この高温の斑点は、星周円盤から磁場にそって星表面に落ちてくるガスの流れの根元にあたる。X線を放射するだけの超高温に達するには、流入するガ スが秒速二千キロで星表面にぶつからなくてはならない。その結果として、斑点の領域は他の星表面より13000倍も高温になる。


lightcurve graph
        for V1647 Ori
V1647 Ori からの周期的なX線放射(黄色の線)は、両極にある2対の高温の斑点(赤との 線)の重ね合わせとして説明できる。両斑点は太陽程の大きさがあり、南側の斑点はより強いX線を放射する。上部のイラストは、各々の タイミングで斑点がどこに位置するかを表している。青い十字は、実際に観測されたX線強度を表している。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
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「磁場が連続的によじれて再結合し、その結果、流入するガスが加速されて高速に達するという説が有力です。」テネシー州ナッシュビルにあるバン ダービルト大学の天文学教授で、チームメンバーの David Weintraub 氏はこう述べた。

星とその周囲に広がる円盤は磁場で繋がっている。星は星周円盤より速く回転するため、両者に繋がる磁場はひねられ、巻き上げられたゴムひものよう にねじれあげられる。ねじれた磁場はより安定な状態に変位する際、ためられたエネルギーを一気に放出する。この磁気再結合と呼ばれる過程は、太陽 のX線フレアでも見られる過程である。

しかし同じ物理過程でも、その現象の継続時間は大きく違う。太陽フレアのピークはものの数分で終わってしまうが、V1647 Ori の爆発的現象は数年続く。

比較として、記録に残るもっとも強力な太陽フレア、2003 年11月4日の X28 フレアを考えてみよう。濱口は、V1647 Ori の爆発的活動時のX線強度は、この太陽フレアの数千倍強いと見積もった。いったいどうやってこれだけのエネルギーを生み出すのか?大本のところはまだよく わかっていない。研究者は、爆発的活動現象は、星周円盤外側のガスが徐々に内側に流入し、臨海に達した後にあるきっかけで始まると考えている。一 旦、その現象が始まると、ガスはひたすら落ち、X線を放出し続ける。

すざくを始めとするこれら三大X線衛星のおかげで、太陽のような星の極めて幼少期の爆発的活動現象をかいま見る事ができた。

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