星は一生の最期に大爆発を起こして「超新星」として輝きます。このうち核暴走型の超新星をIa型と呼び、その明るさは一定と考えられてきました。しかし、実のところ爆発の詳しいメカニズムはまだよくわかっていません。いくつかの研究が指摘するとおり、最近ではIa型超新星の個々の明るさが同じであるという一様性にも疑問が投げかけられ始めています。Ia型の真の姿を明らかにするには、星が爆発時にどのような状態にあったかを観測で知る以外に方法がありません。とくに爆発時に星が生成する酸素・ケイ素・鉄などの元素分布を明らかにできれば、解明への大きな一歩となることがわかっています。しかし、はるか彼方の銀河で起きるIa型超新星の観測から直接こうした元素の分布を知るのはほぼ不可能です。このため、決定的な検証材料が不足していました。
私たちは天の川銀河の中で1,000年前に爆発したSN1006に着目しました。SN1006は藤原定家の日記「明月記」にも記録の残る、京都にゆかりのある超新星です。1,000年後のいま、SN1006は直径60光年、地球から見ると満月の大きさに匹敵する巨大「超新星残骸」としてX線で明るく輝いています。研究グループは、過去最高感度を持つ日本のX線天文衛星「すざく」を用いてこの天体を観測しました。
超新星爆発で生じる爆風は衝撃波を形成し、毎秒約1万キロメートルもの速さで宇宙空間に広がります。衝撃波は約1,000年で直径数十光年の大きさに膨張し「超新星残骸」を形成します。その内部には、100万度から数1,000万度に加熱された星の残骸が充満してX線で輝いています。超新星残骸をX線で観測すれば、爆発で飛び散った星の残骸の分布状況を調べることが可能です。
「すざく」のX線イメージから、衝撃波で形成されたSN1006の外殻はきれいな円形をしていました(
図1)。Ia型は一般に爆発は等方的、かつ星間ガスも希薄で一様なため、爆風は等方的に広がり、その結果、残骸の形状は円形になります。なかでもSN1006は完全に近い円形を示していました。感度に優れた「すざく」はこの内側で様々な元素の特性X線を検出しました。
図2にSN1006のX線エネルギースペクトルを示します。研究グループは、これらの元素が超新星爆発時に白色矮星の中で合成され宇宙空間に撒き散らされたものであることを突き止めました。
このようにしてSN1006の内部に充満した元素は、1,000年前の爆発時の白色矮星の内部の元素分布をよく保存しています。従来の標準的なIa型爆発理論に従うなら、その丸い外殻に充満する星の残骸もまた丸い形状のまま膨張していると予想されます。
ところが、「すざく」の観測結果はこの予想を完全に覆しました。星から飛び散ったケイ素・硫黄・鉄などの重い元素は、明らかに一方向に偏って分布しています(
図3にケイ素の例を示す)。これに対して酸素などの軽い元素は、ほぼ一様に分布していました。ほかの天体との衝突ではこの分布を説明することができません。私たちは、SN1006のもとの星がIa型爆発を起こした際、重い元素だけがある方向に「ゆがんだ」まま爆発したことを突き止めました。「定家の超新星」の現在の姿から、過去に遡って1,000年前の爆発の様子を見ることに成功したのです。
従来考えられてきた最も単純な爆発メカニズムの場合、Ia型超新星には個性がほとんどなく明るさは一定になります(標準光源)。今回の発見のようにIa型が「ゆがんだ」爆発をするなら、観測方向によって明るさが異なって見えるはずです。つまり標準光源として使用するには「明るさの補正」をしなければなりません。 正しい「補正」をするためにはIa型超新星の具体的な爆発メカニズムを知らなければなりません。
最近、爆発シミュレーション研究から、星がIa型爆発を起こす際、内部の鉄は必ず一方向に偏るという説が提案されていました。しかし、観測的に十分な証拠は見つかっていません。 今回の研究は、鉄だけでなくケイ素など様々な元素の「ゆがんだ」形状分布、すなわち、Ia型超新星の爆発時の元素分布を初めて明らかにしたものです。このような分布が観測的に得られたことで、標準光源としての爆発メカニズムの解明を大幅に進展させることができます。
今回観測したSN1006内部のケイ素や鉄は、奥行き方向にも偏っている可能性があります。これを検証するため、蛍光X線のドップラーシフトの検出と膨張速度の測定を目指します。このためには2015年に打ち上げる日本のX線天文衛星ASTRO-Hが必要です。さらに京都大学などが開発しているASTRO-H搭載用新型CCDカメラを併用することで、世界に先駆けてSN1006の“立体”構造の全貌解明に挑戦します。