2007年9月3日
X線天文衛星「すざく」によるX線観測の第3期公募のご案内
(AO-3)
<はじめに>
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部ではX線天文衛星「すざく」を2005年7月10日に打ち上げ、X線分光器(XRS)を除く、4台のX線CCDカメラと1台の硬X線検出器による観測を順調に進めて来ました。これまでに700個を越す天体の観測をすすめ、「すざく」が持つ高感度広帯域X 線分光性能を活かした、数々の研究成果が発表されています。この「すざく」を活用するため、2006年4月からは、世界中からの観測提案に基づく、第1期、第2期公募観測(各1年間)を実施しています。これに引き続き、2008年4月から1年間、第3期公募観測を行う計画であり、下記の要領でその観測提案公募を行います。今回新しい点は、300 ksec から1 Msec の長い観測の提案のカテゴリーを設けたことです。
<すざく衛星>
すざく衛星では、10 keV まで高効率で集光結像するX線望遠鏡が搭載され、その焦点面にはX線CCDカメラ(XIS)が置かれ、現在は4台中、3台で観測しています。CCDカメラは特に広がった天体に対し、0.8 keV 以下の超軟X線領域での感度と波長分解能において、Chandra/XMM-Newtonにない大きな特長を持ちます。最近では、電荷注入法により、エネルギー分解能の劣化を抑える運用を導入しています。硬X線検出器(HXD)は集光撮像系は持たないものの、数百 keVまでの広い波長域で、これまでにない高い感度を持ちます。CCDカメラと硬X線検出器を合わせた、広帯域観測はすざく衛星の大きな特長と言え、観測提案はこうした特長を活かしたものを考えて頂くと良いと思います。機器の詳細 (Technical description document)や、試験観測期間中に既に観測された天体リスト、第1期、第2期公募観測の天体リストを、すざく衛星のホームページに掲載しています。
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/
なお、機器の詳細については最新の情報を取り入れ、10月初旬に改訂する予定です。
<衛星運用計画>
すざく衛星は日米協力で開発が進められて来ており、開発、衛星運用にかかわる研究者で構成される科学観測委員会(Science Working Group:SWG)でプロジェクト全体が進められています。2006年4月以降は、通常の観測時間のすべてを公募観測に費やしています。第3期公募観測も2008年4月から1年間、同様に、公募観測を行います。すざく衛星では、衛星運用等のための以下の時間を除いた時間を、この一般公募観測の時間としています。
- Observatory Time (3%):姿勢制御、衛星の保守等
- Calibration (5%):定期的な機器較正用観測
- Director's Discretionary Time(4%):全く予想していない天体での突発現象、ガンマ線バースト等、すざくで観測すべき現象の観測
以上を確保した残りの 88% が実観測時間となります。その中を、(1) 日本観測時間 50%、(2) 米国側観測時間 37.5%、(3) 日米共同観測時間 12.5%、の割合で配分することになっております。日米共同枠は、同じ天体について独立な提案が日米で提案された場合、両提案者が共同観測を希望するなら、この枠に取り込みます(希望するかどうかの質問項目が投稿様式の中にあります)。この時間配分方式は宇宙研とNASAとの間の協定により決められています。また日本側観測時間の中から 8% を、日欧共同観測としてESAからの観測提案に割り当てております (従って純粋の日本観測時間は 42% )。すなわち、今回応募の対象となる時間枠は日本占有時間 42%ですので、1日の実観測時間を38キロ秒として5056 キロ秒(=38x360x0.88x0.42)が純然たる日本の公募観測の時間です。なお、日米欧以外の外国の研究者も日本時間の枠に提案して頂きます。但し、審査は日本国内の提案と同時に行い、その合計時間はESA枠を越えない範囲とします。
<観測提案の諸条件>
既にすざく では試験観測(SWG time)、第1期、第2期公募観測(AO-1, AO-2)で700個以上の天体を観測することになります。その天体のリストは以下のURLに示されています。
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/accept/
ここに上げられているターゲットの内、AおよびBランクにあるものは観測が約束されていますが、CランクおよびTOOは観測されない場合があります。
今回の公募観測では、すでに観測された天体を提案されても、全く別の観測モードなど特別に新しい要素がなければ、採択されない可能性が高くなります。一方、AO-1, AO-2でCランクおよびTOOだった天体については、誰でも再提案できます。但し、AO-1, AO-2で観測時間が70%以上終了すれば、観測が完了したと考え、例えAO-3で採択されても原則的には、観測は行われません。70%に満たない場合、同じ提案者以外の新提案が採択されれば、継続して観測を行い、データはAO-3と以前の提案者でシェアして頂きます。AO-3で独立に新提案に沿って観測を実施します。同じ提案者ならば、追加の観測を行います。
そして、今回新たに、300 ksec以上のLong Program(L)を別に審査することにしました。観測時間の上限は1 Msecとします。これによりすざくの特性を大きく活用し、同一天体の長期観測や、領域のマッピング、など、様々なプロジェクトが可能だと思います。これには、提案書の量、審査員の数、次に説明するTCを制限する等、他の提案と違った扱いとなります。また、こうした貴重な結果は、なるべく早くコミュニティで共有するため、L programの観測データは即時公開になります。
天体現象の位相や、同時観測計画に合わせて、観測の時期を指定することもでき(time critical observations:TC)、運用チームは運用の許す範囲で、その実現に努力します。また、ある期間をおいてモニターする場合、望遠鏡光軸周りのRoll角の指定のある場合もこの部類に属します。これらの場合は申請書のTCとある欄に印を記入して下さい。特にLの提案でTC、および次に述べるTOOを計画するときは、予め、以下のアドレスにコンタクト下さい。
突発的現象を予想できる場合には、Target of Opportunity Observation(TOO)として提案することができます。但し、対象とする天体名と、TOOを行うための条件を明示することが要求されます(漠然と「超新星が爆発したら」などの提案は受け付けない)。またAO-3の期間に起こる確率、イベントの継続時間も示して頂きます。このTOOの対象とする天体のリストを上げる時には、5天体を越えないこととします。
全く予想していない天体での突発現象、ガンマ線バーストや、すざくで観測すべき現象が起きた時には、Director time (4%)を用いて観測しますので、以下のアドレスにコンタクトを取って下さい。
この場合の観測データはすぐに公開します。(特にガンマ線バーストについては、すざく科学ワーキンググループが、各種ネットワークからの情報に基づき、観測を計画する予定です。)
<提案採択の手順とスケジュール>
今後のスケジュールは、2007年11月30日正午(日本時間)に公募を締切り(欧米を除く諸外国の提案も含む)、日本国内のレフェリーによる査読、評価の後、2月の観測運営委員会において日本時間の採択提案を決定します。この時、欧州ESAからの提案も取り込みます。2月中に日米調整委員会を開き、その後、採択提案の公表を行います。
レフェリーはX線天文学関係者だけでなく関連分野の研究者も含み、数人の紙面審査の後、観測運営委員会で採択を検討します。
採択提案は4つのカテゴリーに分かれ、L、Aのターゲットは予定期間(2008年4月から1年間)に優先的に観測します。Bのターゲットは予定期間に観測することを目指しますが、場合によると次期に持ち越される可能性があります。Cは観測時間に空きができたら、拾い上げて観測される可能性があります。その割合は観測可能時間をTとすると、L+A, B, Cそれぞれ、0.6T, 0.3T, 0.5T分の観測時間を目安に相当するプロポーザルを採択します(40%多めに採択)。なお、別枠になっている12%の時間に余裕があれば、Cターゲットの観測を更に進めることにします。
TOO観測, Time Criticalな観測はより重要な科学的意義をもつ観測提案(Aターゲット)に限られます。
<観測データの占有権>
採用された提案に基づく観測データは、基本処理を済ませたデータを提案者が取得可能になった後、1年間の占有期間が与えられます。提案された以外の緊急のTOO観測、ガンマ線バースト、L programなどの観測のデータはただちに公開されます。なお、衛星運用の状況によっては変更の可能性がありますが、目標天体のデータが取得できた時間が、原則として観測予定時間の90%(L, Aターゲット)、70%(Bターゲット)を越えるまでは観測を続けます。