カロリメータ用デジタル処理系

マイクロカロリメータは原理的には非常に高い分解能を達成可能ですが、それを実現するためには読み出し回路系のノイズを極力落とす必要があります。さらに、読み出された波形に対してデジタルフィルタリング処理を行いノイズの影響を低減することにより数eVという驚異的な分解能を達成することができます。

最適フィルター処理とデジタル処理系

マイクロカロリメータは極低温に冷却することによりノイズを減少させていますが、回路系などでパルスを読み出す際になどに必ずノイズが載ってしまいます。このノイズにより出力されたデータから元のX線のエネルギーを求める際に誤差が生じますが、通常、周波数空間におけるノイズの形状というのは処理系に固有なものとなるため、これをを利用してノイズの影響を低減する方法があります。この方法は最適フィルター処理と呼ばれカロリメータを使用する上で必須となっています。
しかし、この最適フィルター処理を行うためには、パルスの全体をデジタルデータとして取得、保存する必要があります。ピークホールドなどの処理と比べて、処理そのものが複雑になるだけでなく扱う情報量も膨大になるので、処理系にかかる負担は大きくなります。

地上応用:透過型電子顕微鏡用マイクロカロリメータ

マイクロカロリメータの高い分解能は天文学だけでなく地上でもその力を発揮し、核施設の査察や、医療など幅広い可能性を秘めており、我々のグループではSeiko Instrument Inc.と共同で透過型電子顕微鏡用のマイクロカロリメータ検出系を開発しています。
透過型電子顕微鏡は高い電圧をかけて加速させた電子を対象物に照射することにより光学顕微鏡よりも精度よく撮像を行うことが可能な顕微鏡で、対象物を電子が通過する際に対象物の中の電子が励起されその物質に特有のX線が放射されます。このことを利用して、物質の撮像と同時にその構成材質を調べる事が可能となっています。
マイクロカロリメータは従来この目的で使用されていたX線検出器よりも遥かに高い分解能を有するため、物質の構成材料だけでなくその化学的な状態をも調べる事を可能とします。これは特に半導体など、表面の汚染が深刻な問題となる分野において画期的な検出手段となります。

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処理系開発とSpaceWire

透過型電子顕微鏡用のマイクロカロリメータ検出系(以下TEM用検出系)の開発において問題となるのは、そのカウントレートの高さです。通常衛星においては、1秒間に10個程度の光子が来ればかなり明るい天体ということになりますが、TEM用検出系はその20倍以上のカウントレートに対応しなければなりませんでした。そこで我々は、SpaceWire対応の汎用デバイスを用いて処理系を構築しました。SpaceWireとは柔軟な転送速度とルーティング機能を備えた次世代の宇宙用通信規格で次世代の衛星では共通して使用が予定されており、この規格を備えたデバイスを用いることにより宇宙応用可能なシステムを作り上げることが出来ます。

開発の現状

現在、カロリメータの読み出しには成功していますが、内部ソフトウェアの作成や、多チャンネル読み出しなど、まだ課題は多く残されています。

NEXT衛星に向けて

NEXT衛星では現在我々のグループで開発中のシステムをひな形として、カロリメータ用の処理系が開発されています。



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