理化学研究所の山口弘悦基礎科学特別研究員と京都大学大学院の 小澤碧博士課程学生を中心とする研究グループは、ふたご座のクラゲ星雲 (約4,000年前に爆発した超新星の残骸)が、爆発直後には太陽の1万倍以上も 熱い巨大な火の玉であった証拠を世界で初めてとらえました。 過去最高の感度を持つ日本の X線天文衛星「すざく」※1 を用いた観測により、 現在のガス温度(700万度)では作ることができないケイ素(Si)や硫黄(S)の 完全電離イオンを大量に発見したのです。これらは超新星が起きた直後の 衝撃波によって4,000年も前に生成したもので、超高温の火の玉が宇宙に 残した「化石」といえます。通常の超新星残骸では、ガスは希薄な宇宙空間の 中でゆっくりと熱くなり、数百年かけてようやく1,000万度ほどに達します。 今回、高温ガスの中に「化石」を観測したことから、クラゲ星雲は、 爆発後まもなく星を取りまく厚い雲を一気に1億度以上にまで加熱した 「新しいタイプ」の超新星残骸であることが明らかになりました。 太陽の表面温度が6,000度なので、新タイプの超新星残骸はその1万倍以上も 熱い灼熱の火の玉です。このような特異性は、爆発前の星が超新星を 起こす直前まで自身の表層ガスを放出していたことに起因します。 したがって本研究は、爆発前の星の大きさや活動性、星の進化から爆発に至る メカニズムを、何千年も経過した後の超新星残骸から解き明かす重要な 手がかりを与えています。宇宙最大の爆発現象として知られるガンマ線 バーストや極超新星の残骸が見つかる日も近いかもしれません。
本研究成果は、米国の科学雑誌 『アストロフィジカル・ジャーナル・レター』(705号:11月1日発行) に掲載されました。
図1:クラゲ星雲(IC443)の可視光(オレンジ色) およびX線(RGBカラー)の合成写真
クラゲ星雲は、約4,000年前に爆発した超新星の残骸であることが知られ、 その直径はおよそ65光年に相当する。なお、右端で明るく輝くのはプロプス (ふたご座イータ星)と呼ばれる赤色の変光星である。 可視光画像はDigitized Sky Survey (DSS)のデータを用いて作成。 [可視光のみの画像はこちら]
(上) X線の強度をエネルギー毎に表示。青線は通常の超新星残骸でも 見られる約700万度の高温ガスからの放射を示しており、ケイ素(Si)など 様々な元素の特性X線が確認できる。「すざく」はさらに、赤線で示した すべり台状のスペクトル構造を発見した。
(下) 縦軸は実際のデータから高温ガス(上図青線)の寄与を差し引いた残りを示す。 2つのすべり台構造がよりはっきりと確認できる。この構造は、完全電離した ケイ素(Si14+)と硫黄(S16+)が自由電子を捕獲 (自由−束縛遷移)した際に発生する「放射性再結合X線」と呼ばれるもので、 超新星残骸から検出されたのは世界で初めてである。この発見によって、 通常では考えられないほど多量の完全電離イオンが ガス中に存在することが明らかになった。