極限まで圧縮された物質の状態を調べる新しい方法を開拓〜 「すざく」で探る中性子星近傍の時空構造 〜概 要この結果はNASAからプレスリリースされています。 (http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2007/active_galaxy.html) 本 文「これは天文学と言うよりも、純然たる基礎物理学です。」NASA/ゴダード宇宙飛行センターとメリーランド大学のS. Bhattacharyyaは言います。 「中性子星の中心には、たとえばクオーク物質のような、これまで知られていない種類の神秘的な素粒子か、 あるいは、少なくとも、これまで知られていない物質状態が存在している可能性があります。 しかしそれらは地上の実験室で生み出すことは不可能です。それらを発見する唯一の方法が、中性子星を理解することなのです。」 そのような新種の素粒子や、新たな物質状態を発見するために、 科学者たちは、中性子星の直径や質量を正確に測定しなくてはなりません。 日本の「すざく」衛星やヨーロッパのXMM-Newton衛星によるプロジェクトにより、 この分野が大きく前進しました。 XMM-Newton衛星を使って、Bhattacharyyaとゴダード宇宙飛行センターのT. Strohmayerは、中性子星と普通の星の連星系の「へび座X-1」を観測しました。 彼らは中性子星表面のすぐ上空を公転している降着円盤の中の熱い鉄原子からの特性X線のエネルギー分布を詳細に研究しました。
これまでのX線天文衛星も、中性子星の回りにある鉄原子の特性X線の検出には成功していましたが、 そのエネルギーを詳細に調べる能力が不十分でした。 XMM-Newton衛星の集光力のおかげで、Bhattacharyya と Strohmayer は、 極端な高速で運動するガスの中に存在する鉄原子からの特性X線のエネルギー分布の広がりを発見できたわけです。 そのエネルギー分布は、特殊相対論が予想するドップラー効果、ビーミング効果に加えて、 極めて強い重力の下で初めて現れる一般相対論的な時空の歪みによる重力赤方変移の影響も受けていることがわかりました。 「我々はこうした広がった特性X線のエネルギー分布を多くのブラックホールで見ていますが、 中性子星でもこうした現象が起きているということが初めて確認できたことになります。 中性子星に質量が降り積もる様子は、ブラックホールの場合と大差はなく、 やはりアインシュタインの理論を検証する手段となります。」 と Strohmayer は言います。 ミシガン大学の E. Cackett と J. Miller を中心とするグループは、「すざく」の非常に優れたエネルギー測定能力を利用して、 「へび座X-1」、「GX 349+2」、「4U1820-30」という3つの中性子星連星系の観測を行いました。 この3つの中性子星からはXMM-Newtonの結果を強く支持する特性X線のエネルギー分布が得られました。 「我々は中性子星表面のすぐ外側を波立ちながら回っているガスの様子を捉えたことになります。」と Cackett は言っています。 「もちろん円盤の内側は中性子星の表面よりも内側を回ることはできませんから、 我々の観測から中性子星の大きさの上限値を求めることができます。 解析の結果、中性子星の半径は、せいぜい14〜16km以下であることがわかりました。 この結果は別の方法から推定されている値と矛盾しません。」 「いまや3つの中性子星から相対論の影響を受けた鉄原子の特性X線が見えたわけですから、 我々は新しいテクニックを確立したことになります。」Miller は続けて言います。 「中性子星の質量や大きさを測定するのはとても難しい仕事です。 この仕事を成し遂げるためには、さまざまな手法を動員することが必要です。」 中性子星の大きさや質量を知ることで、物理学者は、信じがたいほどにたくさんの物質が詰め込まれたこれらの天体の「固さ」、 あるいは「状態方程式」を記述することができます。 アインシュタインの一般相対性理論を検証するのに鉄原子の特性X線を利用することに加えて、 天文学者は中性子星のまわりにできる降着円盤の内側の物理状態を調べることもできます。 XMM-Newtonの観測結果は、2007年8月1日付 「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」 誌に掲載されました。 「すざく」の観測結果も同じジャーナルに投稿されています。 この結果については、NASAからも同時プレスリリースが行なわれています |