「すざく」、白色矮星パルサーを発見

2008年1月17日

白色矮星は、軽い星の死骸であり、ゆっくと冷えて行き、やがて見えなくなるものと信じられています。しかし「すざく」衛星の観測から、白色矮星のまったく違った側面が明らかになってきました。みずがめ座AE星の中にある白色矮星は、その自転に伴って、中性子星のパルサーのようなX線パルスをしていることが発見されました。

「我々はかに星雲の中にあるパルサーのような振る舞いを見ているわけですが、今回のそれは中性子星ではなく白色矮星からのものなのです。これはパルサーのような活動が白色矮星でみつかった最初の例ということになります」NASA・ゴダード宇宙飛行センターの向井浩二 研究員は言います。向井氏は2007年12月に、カリフォルニア州サンディエゴ市で開かれた「すざく」の国際研究会で発表された論文の共著者の一人です。

白色矮星は、太陽ほどの質量の星が、中心部で核燃料である水素を使い果たした時に誕生します。この時、星の外層は星間空間に放出され、時には惑星状星雲(planetary nebula)を形成します(図1)。一方で星の中心部は重力収縮し、太陽程度の質量をもちながら地球ほどの大きさしかない天体になります。これが白色矮星です。白色矮星は、はじめは核融合反応の余熱で焼けつくほどの高温ですが、その熱を維持する核融合反応がとまっているため、数十億年をかけてゆっくりと冷え、最終的には冷え切って見えなくなる運命にあります。

図1. 惑星状星雲BD+303639。中心の白い点が白色矮星。http://subarutelescope.org/Pressrelease/2004/12/15/BD303639.jpg

埼玉大学の寺田幸功 准教授に率いられた研究グループは、みずがめ座AE星を含め、自転速度が極めて速く、磁場も地球磁場の一千万倍も強い白色矮星の存在に気づいていました。こうした白色矮星なら、電子などの荷電粒子を、光速に近いスピードまで加速していても何の不思議もなく、これらの高速粒子が、われわれの銀河系を高速で駆け抜け、地球にも飛んでくる宇宙線の源となっていることも十分に考えられます。

この仮説を検証するため、寺田准教授と彼の共同研究者は、2005年10月と2006年10月の2回に亘って、「すざく」でみずがめ座AE星を観測しました。白色矮星は普通の星と連星系をなしています。白色矮星の重力で普通の星から引きずり出されたガスは、螺旋を描きながら白色矮星へと落下しながら高温になり、エネルギーの低いX線を放射します。データ解析をした研究チームは、エネルギーの高いX線が、白色矮星の自転に同期して、周期33秒のパルス状の時間変動をしていることを突き止めました(図2)。
図2. 「かに星雲」の中心にあるパルサーの周期33ミリ秒のX線パルス(上段)と、みずがめ座AE星の白色矮星からのX線パルス(下段)。いずれも「すざく」衛星のデータ。

高エネルギーX線のパルスの形は「かに星雲」の中にあるパルサーのそれによく似ています。いずれの天体でもパルスは灯台からのビームのように見えます。そのビームは、回転する天体の磁場によって制御されていると考えられています。

パルサーは、非常に重い星が激しい超新星爆発を起こした後の星の芯が重力崩壊してできる中性子星の一種です。白色矮星ですら1立方センチメートル1トンという信じられないほどの高密度ですが、中性子星はさらにその10億倍もの密度になっており、太陽の1.4倍もの質量をもちながら、半径はわずかに10kmほどしかありません。パルサーは灯台のように、電波やX線でパルス状に光っています。

天文学者たちは、パルサーのまわりの極端に強い磁場が荷電粒子を捉え、それらを振り飛ばすことで光速に近いスピードまで加速していると考えています。これらの荷電粒子が磁場と相互作用をすることで電波やX線が放射されるのです。

「みずがめ座AE星は中性子星パルサーの白色矮星版です。パルサーは宇宙線の加速源として知られています。白色矮星は中性子星ほどの加速能力はありませんが、数が多いので、我々の銀河系における低いエネルギーの宇宙線の加速に大きく寄与していると考えられます」と寺田准教授は話します。

図3. みずがめ座AE星の想像図。白色矮星の回転のエネルギーを使って粒子を加速し、その粒子から、磁極方向にX線が放射されます。白色矮星の自転でこのX線ビームが我々の視線に入る時に、灯台のように一瞬だけ光るX線パルスが観測されます。

「我々は、将来のX線観測により、白色矮星のパルサー活動について、これ一例だけでなく、もっと一般的にいろいろなことがわかるだろうと期待しています。中性子星についても、白色矮星についても、これらの天体のまわりで何がパルス状の放射を引き起こしているか、その詳細についてはまだ誰も知らないのです。」と向井研究員は語ります。

今回のみずがめ座AE星の観測結果は、2008年4月に刊行される 日本天文学会 欧文研究報告 第60巻2号 に掲載されることになっています。



以上の結果については、NASAからもプレスリリースが行なわれています。以下のHPをご覧下さい。 http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2007/whitedwarf_pulsar.html

また、2008年1月17日に埼玉県庁で報道発表を行いました。その詳細については以下のHPをご覧下さい。 http://www.heal.phy.saitama-u.ac.jp/~terada/01work/press_release2008/index_j.html

「すざく」は2005年に打ち上げられた日本の5番目のX線天文衛星であり、日本の大学や研究機関、NASAのゴダード宇宙飛行センターの研究協力体制のもと、JAXAがその運用を行っています。 以下の「すざく」ホームページもどうぞご覧下さい。
http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/index.html.ja