300年前に眠りから覚めた天の川銀河中心のブラックホール2008年4月16日この発見は、われわれの天の川銀河中心のブラックホールがなぜこんなに静かなのかという長年の謎に解決の糸口を与えるものです。天の川銀河中心のブラックホールである「いて座A*(Aスターと読みます)」は、太陽の400万倍もの質量を持つモンスターであることが知られていますが、その周囲から放出されているエネルギーは他の銀河の中心にあるブラックホールに比べて10億分の1と、極めて低いレベルにあります。
日本天文学会欧文研究報告に発表されている今回の新しい研究成果は、日本のX線天文衛星「あすか」と「すざく」、NASAのチャンドラX線天文台、ヨーロッパ宇宙機関のXMMーニュートンX線天文台の観測結果を総合して導き出したものです。 1994年から2005年の間に行われた観測の結果をつなぎ合わせると、銀河中心ブラックホールの近くにあるガスの雲(分子雲)が、ブラックホールのごく近傍からのX線の増光に応えるかのように、X線で急速に明るくなり、ふたたび暗くなる様子が浮かび上がりました。
驚いたことに、差し渡しの広がりが10光年ほどもある「いて座B2」の明るさが、わずか5年ほどで大きく変動しています。この変動は光エコーとして知られています。「すざく」が6.4キロ電子ボルトの特性X線を検出したことで、この光エコーが、まぎれもなくX線の照射によって引き起こされた現象であり、電子や陽子などの荷電粒子の照射によるものでないことがはっきりしました。 研究チームの京都大学・ 小山勝二 ・教授の話:「この分子雲が10年の間にどのように明るくなり、また暗くなって行くかを観測することで、我々は300年前のブラックホールの活動の歴史を辿ることができます。銀河中心のブラックホールは300年前には現在に比べて100万倍も明るかったのです。それは信じられないほどの巨大フレアだったにちがいありません。」 同様の研究は、光エコーの技法を考案したいくつかのグループによってもなされています。昨年、カリフォルニア工科大学のマイケル・ムノに率いられたグループが、チャンドラ衛星のX線光エコー観測を使って、同じ「いて座A*」が50年前に巨大バーストを起こし、X線で明るく輝いたことを示しました。これは天文学者が宇宙空間からのX線を捉える観測衛星を手にする10年ほど前のことです。ムノによれば、300年前の爆発の方が、50年前のものに比べて10倍ほど強かったことがわかりました。 地球から銀河中心までの距離はおよそ2万6千光年です。このことは、われわれは今から2万6千年前のできごとを見ていることを意味します。天文学者は「いて座A*」の活動性がこれほどまでに変化する理由を完全に理解しているわけではありません。数百年前に銀河中心の近くで起きた超新星爆発が、周囲のガスをはき集めて銀河中心のブラックホールに供給し、これがブラックホールを眠りから目覚めさせ、巨大な爆発を引き起こすきっかけになった可能性があると小山教授は指摘しています。 今回の天の川銀河中心の観測結果は、2008年1月に刊行された日本天文学会 欧文研究報告「すざく」特集号第2集に掲載されています。また、京都大学、NASA、およびヨーロッパ宇宙機関(ESA)からも同時記者発表が行われています。 京都大学のプレスリリースは以下のHPをご覧下さい。 http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/member/koyama/koen.html NASAのプレスリリースは以下のHPをご覧下さい。 http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2008/blackhole_slumber.html ESAのプレスリリースは以下のHPをご覧下さい。 http://www.esa.int/science http://sci.esa.int/ 「すざく」は2005年に打ち上げられた日本の5番目のX線天文衛星であり、日本の大学や研究機関、NASAのゴダード宇宙飛行センターの研究協力体制のもと、JAXAがその運用を行っています。 以下の「すざく」ホームページもどうぞご覧下さい。 http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/index.html.ja |