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X線スペクトルからわかること

X線スペクトルについてもう少し説明します。スペクトルの形は天体によって千差万別ですが、その形状から大きく「連続スペクトル」と「線スペクトル」に分けられます(図5)。

[スペクトルの特徴]
図5:連続スペクトルと線スペクトル

連続スペクトルは広いエネルギー帯域にわたって連続的に変化するスペクトルで、X線の発生メカニズムによって大きく変わります。ある温度の物体がX線を放射している場合、その温度に対応するX線よりエネルギーの高いX線はほとんど出ないので、連続スペクトルの形はあるエネルギーで折れ曲がります。これを模式的に表すと図6の赤線や青線のようになります。これに対して、熱的でない(これを「非熱的」といいます)現象からX線が出てくる場合、そのスペクトルは高いエネルギーまでずっとのび、図6の黄線のようになります。したがって、高いエネルギーを含む広いエネルギー範囲でX線を観測することによって、X線の発生メカニズムを知ることが可能になるのです。  いっぽう、原子から出てくる光は元素ごとにエネルギーが決まっています。このような元素に固有のX線を「特性X線」といい、そのスペクトルは線スペクトルになります。酸素、硅素(シリコン)、鉄など宇宙に豊富に存在する元素の主要な特性X線は0.5キロ電子ボルトから10キロ電子ボルトのX線領域に存在しています。線スペクトルには図5に示すように、でっぱっている場合(輝線)とへこんでいる場合(吸収線)があって、それぞれ原子から光が出てくる場合と原子に光が吸収される場合に対応します。線スペクトルの強度は、元素の存在量や、温度・密度といった物理状態に強く依存します。また、原子が動いていればドップラー効果によってエネルギーがずれます。したがって、線スペクトルを詳しく調べることによって、天体の物理状態や運動の様子が細かくわかることになります。

[温度とスペクトル]
図6:物質の温度と連続スペクトルの形を模式的に表した図

なお、非熱的な放射は、電子と磁場、あるいは電子と光子の衝突によって生まれると考えられています。輝線スペクトルのもとになる重元素は関係しないので、一般に非熱的な放射からは輝線スペクトルは見られません。

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